ヤワラカ頭の金沢カレー

日本の国民食とまで言われるカレーライスは、
家庭人気料理ベスト10の上位に、ずっと入り続けています。

甘口、中辛、辛口程度だった味のバリエーションも、
ジャワ、キーマなどが登場したあたりからどんどん増え始め、
ホワイトカレー、グリーンカレーなどの見た目でのヒット、
一方でスープカレーなど形態によるヒットも生んで来ました。

さらに、数年前に登場したカレー鍋は、もともと明治の後期に開発され
人気の絶えなかったカレーうどんの発展型でもあります。

最近では、町おこしやお土産にカレーは欠かせないものとなり、
いわゆるご当地カレーは驚くほどの登場ぶりです。

辛さ、材料、エスニック、色、形状、本物志向、和風化、町おこしなどなど、
バリエーションのキーポイントは本当にたくさんあります。

そんな中で、最近ヒットしている「金沢カレー」に注目しています。

見た目は、いわゆる普通のカツカレーですが、その量の多さにビックリさせられると共に
カレールーの茶色と言うより濃いドミグラスソースのようなコゲ茶色に、
驚くと言うより若干違和感を感じます。
しかし味は、ただただ普通以上に美味しいカレーで、独特のまろやかさとかトロミ感が
なつかしい感じを抱かせもします。

数年前、NYヤンキース時代の松井選手に、なつかしい地元石川のカレーを
食べてもらうと言う企画でテレビに登場したあたりから、
メディア露出も増えて来たと記憶しています。

このカレーには特別なスパイスや材料が使われているわけでは有りません。
ただ、ルーの中に通常ならチャツネを入れるところ、カラメルを使用しているのです。

通常はお菓子に使うカラメル、プリンには欠かせないカラメルをチャツネ代わりに使う
ヤワラカ頭の発想が、独特のなつかしさを持った優しい味に仕上げ、
地元の人達の味覚とのマッチングやリピーターの固定に成功しています。

砂糖を溶かし焦げ目をつけることでつくるカラメルの味は、甘味が基本で若干の苦味を含みます。
これは、見方を変えるとチャツネと同じ原理で、
甘味が食材とスパイスの味を繋ぎバランスを整えます。
苦味は、食材の風味を引き立て素材の味を鮮明にします。
どういう経緯でカラメルを使用したのかわかりませんが、本当に理にかなったレシピだと言う事です。


文明開化の時代に日本へ入ってきたカレーは、ずっと有る意味で高級料理でした。
シェフの師匠や先輩に習った通りに味の再現する事を由とする世界で守られ、育てられてきました。
美味しいならなんでもやってみようと言う発想が実践できる様になったのは、つい最近だと思います。


時代の流れを読み取り、今の人たちが美味しい楽しいと思うものをヤワラカ頭で作るとき、
時にはタブーを犯さねばなりません。
しかし、基本を崩さなければ、それは大きな実を結びますし、
何より喜んでもらえるのだと思います。


ヤワラカ頭と言えば、昭和初期、梅田阪急百貨店大食堂で
当時高級料理だったカレーライスを庶民価格で供した小林一三が、
カレーを家庭の食べ物にしました。

喜ぶ人のために、美味しいものを提供する、楽しいものを提供する、
ヤワラカ頭を使ったこの発想は、商品企画と言う仕事の何よりも面白いところではないでしょうか。

ヤワラカ頭の小林一三先輩に感謝。